社会見学に参加して
山梨車いす生活者の会
『ステップアップ』 芦沢 茂夫
「台風17号が関東地方に接近しています」との前日の天気予報に「あしたは、なんとしても降らないで‼」と祈っていた。
9年前の夏、甲府シティライオンズクラブに介助をお願いして、リフト付き観光バスで東京・浅草寺の参拝と東京ドームの巨人戦を観戦したのが初回で、今回が9回目の企画という。東京ドームの帰路に大雨に見舞われて、途中下車の会員とクラブの人が大変苦労したこと。また、昨年の収穫祭は、ヘルパーさんを頼んで7年振りに参加させて貰えるのを楽しみにしていたが、日頃の行いが悪かったようで大雨になって大変がっかりした。この二つのことが頭の中にあって「自分は雨男じゃないか?」と考えていた。
9月24日当日、私たち車椅子会員12名(途中乗車4名)は、昭和町のアピオ駐車場に集合、クラブ会員15名の人達の助けを借りてリフト付き観光バスに乗車。今にも降って来そうな厚くどんよりとした曇り空に「きょう1日、降らないで!」と祈りながら、8時30分頃出発、甲府を後にして一路静岡市『防災センター』に向かった。
精進湖線を通り、国道139号に出てから車椅子会員2名を乗せ、富士インターに向かった。ここで参加者27名全員が揃い、クラブの奉仕委員長の司会で『出発式』が開かれ、ライオンズクラブの礒部会長、ステップアップの小林会長、土橋前会長etc、また図らずも初代会長もとの指名で私も一言挨拶をさせて頂いた。挨拶では異口同音に空模様の話が出て「雨男は誰だ?」と追求していたのが印象的だった。
富士ヶ嶺入り口の道の駅でトイレ休憩。台風の影響で風が少し強く吹いていたが、休憩中は雨も止んで車椅子の移動もスムーズだった。朝霧高原を通過。朝霧高原は天気が良くても霧が立ち込める事で有名だが、この日は台風の影響?で霧はなかった。富士インター料金所を通過直後、ガイドさんが「天気が良い日には富士の雄姿が正面に見えます」と。東名高速道路に入ると、左手に駿河湾が一望。由比海岸の高速道路の直ぐ傍には台風の影響で高波が打ち寄せていた。車窓からは雨、風の強い景色が見えて、台風が近づいて来ている様子が感じとれた。
清水インターを降りて、本日の目的地である『静岡市防災センター』へ直行。市内を走ること数十分。道路の混雑も無く予定の11時過ぎに無事到着。ビックリするほどの大きい建物ではなかったけど、先着の観光バスが2台止まっていた。ここでも幸いにバスから降りる時雨が止んでくれ、濡れる事無くセンターに入館できた。
事前の打ち合わせが行き届いていた事もあって、入館後すぐに案内係の娘さんが館内の説明をしてくれて、車椅子を中心に2班に分け見学が始まった。
私達の班は初めに震度7弱の地震体験できる場所に行き、台の上に数人ずつに分かれて乗り、震度7弱の横から揺れ、下からの揺れを「キャーキャー、ウォーウォー」叫びながら体感した。車椅子の人も手摺りにしっかり摑まっていないと何処かへ飛んでしまう程の震度だった。「突然地震がこんな風に来たら、余裕は無いよね」などと感想。次に、大津波を音や映像で体感できる場所に移動。透明ガラスの真下に見える風景は、最近スマトラ沖に押し寄せた大津波を思わせる浜辺が設定されていた。体感場面では、正面の奥から大津波が押し寄せて来て、浜辺の附近に建っていた家屋を一気に飲み込んでいく様子が眺められ、手に取るように分かった。「あんな大波が来たらどうしようもないけど、山梨にいる限りは津波の心配ないね。」と感想。最後に、地震時の防災グッズや備品、家具、建物の倒壊の防ぐ方法などが紹介されている所を見学。館内を一巡した後、責任者から地震に対する心構えや東海、関東、甲信に「何時来ても可笑しくない時期に来ている」ことを聞いた。その後質疑応答「車で逃げる時は、障害者は特別走らせて貰えますか?」の質問に「大きい地震が来たら、車まで行けないでしょう!」と。「地域に住む障害者や高齢者の把握はどのようにしていますか?」の質問には「プライバシーの問題があって進んでいません。」との応え。
昔から怖い順に「地震、雷、火事、親父」と言われているが、地震だけは全く予測のつかない一番怖いもの。「地震が来たら、死ぬしかないね!」と、皆で大笑いしながらセンターを後にした。車椅子の人自身が“自分の事として真剣に受け止め”、隣近所に日頃から自分の存在をアピー
ルし、“善い関係を作って置く事”が一番大事なことだとセンターを見学しながら思った。大地震の中、命を助けて貰うのに「プライバシーなんて戯けたことは言っていられない」と、機会があったら障害者や高齢者に強くいいたいと思った。今日この防災センターを見学したことは、私たちに大きな体験をし、考える機会を得た。
センターを出たのが12時30分。みんなのお腹の虫も鳴き始める時間となり、バスは昼食が待っている焼津のホテルへ向かった。相変わらず天気は雨、風が強くなったり止んだり。30分ほど走ると車窓から焼津港が視界に入り、焼津のシンボルでもあるカツオの絵が書かれたタンクも見えた。焼津インターを通過する時、必ず目にする光景だ。
港の風景が一望できるホテルに着くと、ここでも雨は小休止。ホテルの従業員が玄関に出迎えてくれ、バスから降りた順に昼食会場に車椅子を押して移動してくれた。台風の接近で、漁船が沢山停泊している様子が窓越しに見え、昼食の場には絶好の部屋だった。
テーブルの上に用意された料理の多さを見てビックリ。ホテルの料理と言えば、余り気の利いた物は出てこないが、このホテルは全く違った。流石港町。塩焼き秋刀魚、マグロの刺身、ネギトロ、マグロのカマ煮、茶碗蒸し、イカの塩辛、お新香、味噌汁、杏仁豆腐、御飯、ビール、お茶、ジュースが卓上に揃っていた。
全員が揃った所で、クラブの会長が今日の労を労って挨拶。全員で乾杯した後、昼食になった。私もビールをコップ一杯頂いた。始めの頃は美味しい料理に舌鼓、みんな無言で箸を動かしていたが、時間の経過と共に料理の感想や港の風景を見ながら談義に華が咲き「美味かった、美味かった」の連発でした。これだけの料理が出ると残すものもあって、ホテルに申し訳ない気持ちになった。
折角計画してくれた人には申し訳ないが、一言不満を言わせて貰えるとしたら『車椅子の障害者が利用できるトイレが無かっ
た』ことだ。仲間の中にはホテルまで我慢すればトイレがある、と思っていた人もいたと聞き及んでいる。次回には是非御一考下さい。
沢山食べ過ぎてお腹に納まり切れていない感もある中、時間の都合でホテルを後にし、焼津鮮魚センタ-へと向かった。当初の計画では「静岡と言えば清水の次郎長と日本一のお茶」でお茶工場を見学する予定だったが、急遽変更して鮮魚センターに行くことになった。ホテルからは僅かな時間で到着。ここが本日の最後の社会見学場所。広い売店の中には同じ品物を売っている店が連なり、ところ狭しと売り物が置かれていた。建物の端から歩を進めていくと、次々と声を掛けてきて試食を薦めたり、薦め品を手にして近寄ってきたり懸命に売り込んでいた。私にはクラブのメンバーが同行して車椅子を押してくれ、品定めをしながら付いて来る妻の動きをしきりに気にしてくれた。決められた集合時間には、お土産を沢山買い込んだ人達が暫時バスに戻り、車内の網棚に一杯載せた。ここでも不思議とバス乗降時は雨が止んでくれた。
今日一日の行程はここで終了。楽しかった思い出を心に刻み帰路に着いた。東名高速の焼津インターから富士インターまで一気に走行。車窓から見える駿河湾、漁港、茶畑、精密工場、製紙工場etcが沢山見えた。ガイドさんの静岡県人口当てクイズによると、人口370万人、120万世帯、日本人の3%が住んでいるとか。静岡県の代表的な基幹産業を具間見ることができた。
車内は出発時から甲州弁の達者なバスガイドさんが、そこそこの若さを強調しながらリーダーシップを取って、老若の差無くクラブメンバーとステップアップ会員の乗客27人を相手に、絶妙且つ軽妙な語りで爆笑の渦に巻き込んでくれた。往路も帰路も明るく楽しい雰囲気が車内に充満し、みんなが大声で談笑していた。また、クラブメンバーやガイドさんから年の功から成る色々な薀蓄(うんちく)や人生訓も教えて貰った。ステップアップ会員も座席に座れば普通の人。クラブメンバーやガイドさんとは言いたい放題で応戦、車内を爆笑の渦に誘い、日頃の明るさが車内に漲っていた。
富士インターを降りる頃になると、流石のみんなも疲れが出てきた様子が現われ、ガイドさんは透かさずビデオ映像を見ることを提案。『綾小路きみまろのライブ』を鑑賞しながら最後のトイレ休憩地の道の駅に到着。
河口湖へ帰る会員が途中下車するため、本日の『閉会式』を行った。奉仕委員長の司会で、礒部クラブ会長から今日一日の感想と「ステップアップとの益々の友好を‥‥」と挨拶を頂き、また、小林ステップアップ会長から御礼、感謝の言葉があったあと、運転手さんとガイドさんにも無事の旅と楽しく過ごせたことにお礼と感謝の気持ちで拍手。閉会式を終了。一路甲府へ。午後6時アピオ駐車場に無事到着した。
== お礼の言葉 ==
甲府シティライオンズクラブの皆さん、本日は楽しい旅のお手伝いをして頂き、本当に有難うございました。私も過去に、勤務していた会社の旅行や福祉会の旅行、地区の育成会の旅行などバスの旅をしましたが、いつもトイレの事が頭から離れず、心配で自分の車で行ったり、参加を躊躇したりしたことがありました。私たち車いす生活者が何の心配もなく、楽しく愉快に旅出来たことはクラブの皆さんのお蔭です。このように気軽な気持ちで参加できる旅は、他になかなか無いと言っても過言ではありません。
前日から帰着までずっと心配していた雨も、車椅子の乗降時は必ず止んでくれるという魔か不思議な現象が起きて、全く濡れることはありませんでした。これも参加者みんなの日頃の行為がよかった賜物だと思わせて頂き、天気にも感謝しています。
第1回目の東京・浅草寺参拝、東京ドームの巨人戦観戦のときから今回で9回目。車いすの移動、リフトの乗降、車椅子から座席への移動等々の手助けと細心の心遣いを頂き、本当に有難く感謝の気持ちで一杯です。会員を代表して厚く御礼申し上げます。
最後に、貴ライオンズクラブの益々のご発展を心から祈念すると共に、車いす生活者の会の活動に一層のご支援ご協力を賜わりますようお願い申し上げます。